高齢者にあったか夕食

2012年01月17日 朝日新聞

 買い物や調理に苦労する高齢者への食事宅配サービスが、全国で新たな市場として脚光を浴びている。独自の宅配網を持つ生活協同組合をはじめ、大手スーパー、外食産業も次々に参入。県内でも16日からこうち生協(高知市)が、高知市東部地域限定で始めた。
 「こんにちは」。16日午後2時、高知市大津乙の松岡昭典さん(83)宅に、こうち生協の委託配送スタッフが夕食弁当を届けた。ブリの照り焼き、揚げ出し豆腐など塩分もカロリーも控えめのメニューだ。ご飯付きとおかずのみの2コースで、月曜から金曜まで5日連続で注文し、組合員になる必要がある。
 松岡さんは高齢の夫婦暮らしで、週に1回タクシーで買い物へ行き、生協の食材の個人宅配も利用してきた。松岡さんは「作るのがしんどい時もある。本当にありがたい」と話した。同生協は今後、範囲を市内全域に広げる方針だ。
 夕食宅配は、2007年にコープやまぐち(山口市)が生協で初めて実施。日本生活協同組合連合会によると昨年8月末現在、高知以外の四国3県など22都道府県の24生協が実施。昨年だけで13県に広がった。同連合会の担当者は「食事づくりすら難しい高齢者など、買い物弱者が必要とする支援が変化している」と分析。「需要のある新しい分野で今後さらに伸びる。生協は独自の宅配網を生かせる強みがある」と話す。
 08年に大手居酒屋チェーンのグループ会社になった「ワタミタクショク」(本社・長崎県諫早市)は、全国32都府県で夕食弁当を宅配。専用工場が国内9カ所、営業所が240カ所あり、全国で約6千人を配送スタッフに雇用している。
 売り上げは、10年度末の154億円から11年度末には260億円に増える見込みで、配食数は現在1日20万食に拡大している。13年度には沖縄県を除く全国展開を予定する。配達範囲を県庁所在地周辺など都市部に絞ることで、配送コストを抑える戦略だ。同社の担当者は「最近は都市部でも郊外型店舗が多く、車を運転できない高齢者のニーズはある」と強気だ。
 ■過疎地への提供課題
 競合が激化している地域も出ている。コープえひめ(本部・松山市)は、11年5月に松山市など7市町で夕食宅配を始めた。その後、同じ地域にワタミタクショクも参入。双方が新聞の折り込みチラシなどで客の獲得にしのぎを削る。
 大手スーパーの「フジ」(本社・松山市)も昨年12月、「フジグラン松山」から半径3キロ以内で電話注文による総菜や食材の宅配と高齢者の安否確認を併せたサービスを始めた。同店はインターネットで注文を受けているが、高齢者のために専門スタッフを配置。利用者に週3回電話して注文を聞く。1週間連絡がとれないときは、登録した家族に連絡する。同社担当者は「店を信頼してもらうことが第一。新たな客層を獲得しておきたい」と話す。
 一方、過疎地の高齢者には届いていない。とくしま生協(本部・徳島県北島町)は、徳島県内全市町村を配達地域にしているが、四つの生協支所から20キロ圏内に限定している。圏外からの要望は強いが、配送コストが難題だという。担当者は「事業として維持しなければならない。本当は一番必要としている山間部の人たちにも届けたい」とこぼした。(大蔦幸)