もしもの時に通報 高齢者見守り活動広がる
機器・携帯で検知 地域の協力も必要

2012年02月01日 日経新聞

 高齢者世帯が増えるなか、高齢者の体調が悪くなったり倒れたりした時に通報や安否確認をする民間の見守りサービスが広がっている。通報装置やセンサーを利用して異常を知らせる方式が主流だが、利用料が高いなど問題もある。地域社会で見守ることも効果的とされ、機器と人の目をどう組み合わせるかが課題だ。

緊急ボタン押す

 「あの時、警備員が駆けつけてくれて、本当に助かった」。東京都目黒区のマンションで一人暮らしをする稲本末子さん(86)は振り返る。昨年6月、夜中にトイレに行った際、誤って階段から落ち、ももの骨を骨折。何とかはい上がって寝室まで戻り、枕元に置いてあったペンダントの緊急ボタンを押した。

 通報を受けた東急セキュリティ(東京都世田谷区)の警備員が急行し、ベッドの脇でうずくまっている稲本さんを発見。救急車を呼び無事救出した。「サービスを利用していなかったら、今ごろどうなっていたかわからない」と稲本さんは胸をなで下ろす。

 同社がサービスを始めたのは3年前。高齢者が緊急ボタンを押したり、トイレなどに設置した人感センサーが一定時間検知しなかったら通報が行き、最寄りの待機所にいる警備員が駆けつける。合鍵は待機所が保管する。

 綜合警備保障(ALSOK)も2010年11月から、同様のサービスを始めた。東急、ALSOKとも「利用者は年々増加している」という。ホームセキュリティーのオプションとして提供しているセコムも今後、見守りサービスだけ利用できるよう検討する。

 利用増の背景には一人暮らし高齢者の増加がある。厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、65歳以上の単独世帯数は10年に初めて500万を超えた。

 ただ、民間サービスは利用料が高い。東急の場合、センサーの取り付け工事費が4万2000円、月額の基本料金は4515円。ALSOKは月3706円(工事費込み)で、家族に日常の動きをメールで知らせる配信サービスを追加すると5千円を超える。

 比較的安価な手法として携帯電話の利用もある。NTTドコモは高齢者向けの「らくらくホン」に歩数計機能を持たせ、高齢者が歩いた歩数や携帯の開閉回数などを家族に知らせるサービスを提供。ソフトバンクは開閉情報、KDDI(au)は人感センサーによる日常の活動情報などを家族に知らせる機種を販売している。らくらくホンは通話料以外に月105円かかるだけで、ソフトバンク、auは通話料のみだ。

地域も実験開始

 ただ、高齢者に異変が起きた場合、家族がすぐに駆けつけられるかが問題。高齢者の行動を把握しても、身近に助ける人がいなければ本当の見守りにはならない。

 問題解決のための取り組みは始まっている。神奈川県座間市では、らくらくホンを使った地域の見守り実験が始まった。高齢者約50人に無償で貸与し、歩数情報や開閉回数などを自治会役員などにメールで転送する。携帯の使用が止まったら役員が携帯に電話し、応答がなければ高齢者宅へ駆けつける。

 座間市社会福祉協議会の小林孝行さんは目的を2つ挙げる。「高齢者宅を毎日のように訪問する自治会役員や民生委員の負担を軽くする。もう一つは高齢者を見守る意識を地域全体が共有することだ」

 実験に参加した大角喜美子さん(75)は2年前、マンションの自宅で気を失ったことがあり不安を感じていた。歩数計などの情報は隣に住む自治会長が定期的にチェックする。「何かあったら助けてくれる人が身近にいるのは心強い」と大角さんはほほ笑む。

 独身女性の支援活動をする作家の松原惇子さんは、5年前に「災害ネット」を発足させた。近くに住む人が4、5人でグループをつくり、日頃から交流して緊急時に連絡し合う。東日本大震災の時もメンバー同士がメールなどで互いに励まし合った。

 行政側でも、大半の自治体は高齢者対策の一つとして緊急通報システムを導入している。消防署や民間の業者と提携し、高齢者が緊急ボタンを押すと救急車などが救助に向かう方式だ。ただし、慢性疾患を抱えていることなどの条件がある場合が多い。

 疾患がなくても利用できる簡易型の見守りサービスもある。東京都品川区は昨年8月から日本郵便と連携し、区内の一人暮らし高齢者に毎月1回はがきを送付し、配達員が必ず手渡しして安否を確認する。利用する女性(82)は「定期的に見に来てくれる人がいると安心」と語る。

 品川区高齢者福祉課の野口貴生係長は「月1回だが、地域で孤立した高齢者が役所とつながることで、他の福祉サービスを利用するきっかけになる」と効果を期待する。

 東北大学加齢医学研究所の村田裕之特任教授は「ポットの使用頻度やガスの使用量などから異常を検知するサービスもあるが、緊急時に駆けつける人がいなければ意味がない。近くに親族や友人がいなければ、自治会役員や民生委員に頼むなど、日頃から地域の人との交流を大切にしておきたい」と助言する。