被災地発のIT連携「肌着」、コロナ患者の体調管理に

2020年05月15日朝日新聞

 

 東京電力福島第一原発事故の被災地で生まれた、遠隔で健康状態をチェックできる「肌着」が、京都で新型コロナウイルスの感染者に使われることになった。過疎化が進む地域で高齢者の健康を見守る技術が、看護師らの感染リスクを減らすために活用される。

 ホテルで受け入れる軽症患者向けに、京都府が今月から導入したのは肌着型の「スマートウェア」。心臓付近に電気を通す銀めっきの糸を織り込み、心拍数や呼吸数などを自動的に測定し、取り付けた充電式の送信機からスマートフォンやタブレットにデータを送ることができる。

 データは患者が入力する体温などとともに、パソコンで一括管理される。府はすでに50着を用意し、担当者は「限られた人数で対応する看護師らが、患者と接触せずに体調の変化を観察することができる」と期待する。

 このスマートウェアは建設作業員や保育園児の体調管理のために、繊維メーカーのミツフジ(京都府)が福島県川俣町の工場などで製造している。第一原発から30~50キロ圏にある町は、3年前に一部地域に出ていた避難指示が解除されたが若い世代が戻らず、急速に高齢化が進む地域住民の健康管理や見守りが大きな課題となっていた。そこで町が目を付けたのが、震災後に町に進出したミツフジのスマートウェアだった。

 江戸時代から絹織物で栄えた町と、西陣織の帯工場として創業したミツフジがコラボして、2019年1月から町民参加の実証実験を始めた。スマートウェアで農作業中の心拍数やストレス値を測り、健康管理に応用できるかを検証。データが表示されるスマートフォンの扱いに慣れていない高齢者のために操作を単純化したり、データ表示を大きくしたりするなどの改良を重ねた。

 町は将来的には医療機関とデータを共有し、独り暮らしの高齢者の見守りに活用したい意向だ。自らも実験に参加した佐藤金正町長(71)は「過疎化と高齢化が進む町で取り組んできた『離れて見守る』が、今まさにコロナ禍の対応で求められている。被災地で育てた技術が他の地域に広がり、うれしい」と話している。