岩谷産業、ガス警報器で地方家庭にIoT 見守りも

2020年07月06日日経新聞

 

家庭向け液化石油(LP)ガスで国内シェア首位の岩谷産業は、ガス漏れ警報器を糸口に地方の家庭の「IoT」化を後押しする。2022年3月期中に通信機能の導入を始め、数年で50万戸に設置。見守りや医療など外部のネットサービスを受け入れるハブとし、利用料で稼ぐモデルを模索する。顧客基盤を生かし、地方のIoT需要を開拓する。

岩谷産業は11月、島根県大田市の約100世帯で、あらゆるモノがネットにつながるIoTの実証実験を始める。LPガスと水道、電気の各メーターに無線通信機能を付け、屋内のガス漏れ警報器に情報を集約。警報器は携帯回線で外部とつながり、利用量をリアルタイムで発信する。仕組みを「イワタニゲートウェイ」と名付けた。

水道データの収集では検針を減らしたい各自治体と連携する。ガスボンベの残量もネットを通じて把握でき、効率良く交換できるようになる。だが、大きな狙いは事業者の負担減の先にある。

電力やガス会社が設置を進める「スマートメーター」が屋外から通信するのに対して、岩谷産業のシステムは宅内の警報器を軸として通信する。屋内のあらゆる機器とつながるハブとなりうる。Wi-Fiルーターとして使える利点を家庭に示し導入を図る。

例えば、高齢者が身に着けたウエアラブル端末と連携すれば脈拍が異常になった場合に病院に伝わり、在宅情報を組み合わせれば留守中の不在配達を避けられる。将来は過疎地域での遠隔医療といった次世代技術との連携も可能だ。

今秋には綜合警備保障(ALSOK)と業務提携し、緊急時に警備員やガス配送員が自宅に駆けつけたり、電話で健康相談に応じたりといったサービスを計画する。「一度基盤を作れば、事業はあれこれ追加できる」と岩谷産業の間島寛社長は話し、付加するサービスを増やして利用料で稼ぐ考えだ。

家庭ではシステムの設置費の負担はなくサービスの利用に応じて料金を支払う。1戸当たり1万円超とみられる機器代は岩谷産業が賄い、数年間の投資額は100億円を超える見込みだ。普及にコストをかけてでも事業の種まきを優先する。

LPガスは都市ガスに匹敵する2400万戸の利用者がおり、多くが地方に集中する。岩谷産業は卸売りを含めて全国320万戸にガスを供給する。ガスボンベの定期的な交換という接点を生かし、ネット環境を整えたい地方部の家庭に導入を促す。

当面は手探りの運用が続きそうだ。地方の高齢者はIT(情報技術)機器を使いこなせない懸念があり、健康管理や家電連携など利用者が利点を感じるサービスを打ち出せるかも課題となる。