【終活の経済学】「おひとりさま」の安心終活術(6) 緊急時、終末期に備える

2019年03月25日SankeiBiz

 
 実際に差し迫った状況になってしまってからでは、できることはかなり限られてしまうのが現実だ。日常に対する備えとは別に、大きなケガや病気で病院に運び込まれるというような不測の事態の対策も打っておきたい。


 熱中症や圧迫骨折など、急な病気やケガはいつ襲ってくるか分からない。その備えとして、1人暮らしの場合は、家の中で発生した緊急事態に気づいてくれる自分以外の“目”が必要だ。

 そのためには「見守りサービス」を導入するのが効果的だ。先に紹介した見守り契約のほか、防犯会社の専用サービスやスマートフォンなどを使った安否確認サービスなども多数提供されている。

 加えて、緊急時に医療関係者などに自分の意思や持病、連絡先が伝わるような備えも重要になる。情報をまとめておくとともに、いざというときに人の目につきやすい場所に置いておく工夫も大切だ。

 そして、終末期に自分の意思を代行して医師に伝えてくれる人も確保しておきたい。遠方に住んでいても頼める家族がいればいいし、最近は血縁者でなくても代理の役割が担えるよう、医療現場も変わりつつある。そうした動向を踏まえたうえで手を打ちたい。


 連絡先や薬の情報をまとめておこう

 緊急時に駆けつけてくれる人は近親者に限らない。救急隊員や消防局員、大家さん。あるいは道行く人が助けてくれるということもあるだろう。急に倒れたとき、自分がいったい誰なのか、ということは重要な情報だ。

 そんなとき目が行くのは、その人が持っている財布だろう。財布には運転免許証や健康保険証などが入っていることが多い。そこで氏名や住所が特定できるわけだが、一緒に緊急連絡先や日頃飲んでいる薬などの情報を記載したカードを入れておけば効果的だ。

 また免許証や保険証には臓器提供の意思表示欄が用意されている。脳死で臓器提供するか、心臓死まで待ってもらうか、あるいは提供の意思はないかを示すことができる。

 自宅での緊急時用に、親類などの連絡先などを書き置きしておくのも有効だが、問題は置き場所だ。引き出しに入れては目にとまらない。冷蔵庫の扉にぶら下げるなどの工夫が必要だ。

 ◆必要事項記載したカードを財布に

 緊急連絡先や血液型、常用服用薬、それにかかりつけの病院名など。万が一の際に必要な情報をまとめたカードを財布に入れておけば、必要なときに必要な人の目に入る可能性は高くなる。写真は「つむぐ」(35ページ参照)が提供している「もしものときの緊急連絡先カード(もしかカード)」。見開きで必要情報が記載できる。

 ◆緊急用のエンディングノートにも

 いざというときの情報はエンディングノートに整理して書いておくのも有効だ。「アクティブノート」(オフィス・シバタ)の場合、生前用(緑)と死後用(黄)、そして緊急用(赤)の3冊のノートに分けており、赤ノートだけは冷蔵庫の扉などにつるせるように通し穴が開けられている。どうやったら伝わるかも意識して備えたい。

 ◆身分証で臓器提供の意思表示

 運転免許証や健康保険証、マイナンバーカードなどには、臓器提供の意思を示す欄が設けられている。脳死状態になったとき、現行法では家族の同意があれば臓器提供の手術に踏み切れるが、ここに本人の意思が記載されていればそちらが優先される。臓器提供先について「親族優先」と特記して希望を伝えることも可能だ。


 最期まで支えてくれる人を

 自分自身が人生の最終段階を迎え、どのような医療・ケアを受けたいか-について考えるのはつらい。死を受け入れて緩和ケアに移行するのか、それとも徹底的な延命治療を続けるのか。

 厚生労働省は2018年3月、家族や友人、医療関係者らと繰り返し話し合い、その都度、文章にしておくことが望ましい、とする「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(改訂版)を公表した。

 ◆ACPの発想

 この繰り返し行われる話し合いは「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP)と呼ばれる。終末期の希望を伝える手段として、本人がしたためた「リビングウィル」はよく知られているが、本人の心身の状態の変化などにともなって、その意思は変化していく可能性がある。そこでガイドラインでは、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むかなどについて、意識がはっきりしているうちに、家族らを交えて繰り返し話し合うことが重要だと強調している。欧米では既に普及している考え方だ。

 今回の改訂ポイントはもう一つある。改訂前のガイドラインでは、話し合いのメンバーは「家族」とされていたが、改訂後は「家族等」となっているところ。

 話し合いに家族らが参加することは、意識が混濁して自らの意思を伝えられなくなったときに、本人に代わってその思いを伝えるという意味で非常に重要だ。ガイドラインでも家族ら信頼のおける人物をあらかじめ定めておくことが大切だと述べている。

 ◆親友が代わりに

 そこで「家族」を「家族等」としたのは、1人暮らしの高齢者が増えることを踏まえ、家族だけでなく親しい友人らを含めて、本人の意思を代弁することができるということを示したものだ。

 仮に頼れる親族がいなくても、深い信頼関係でつながった友人ならば、家族と同じ立ち位置で支えてもらうことができる。おひとりさまであれば、そんな信頼のおける友人に看取ってもらいたいのではないだろうか。

 さらに改訂ガイドラインでは、終末期の医療・ケアについて、本人や家族らと話し合うのは、医療関係者のみならず、介護従事者が含まれていることが明確化されている。これは今後広がるとされる在宅医療、在宅介護を意識したもので、看取りの場は病院から自宅へという流れが背景にある。

 人生の最終段階で、望まない延命治療を受けざるを得ない事態となるのは悲しいことだ。しかし、最後まで頑張りたいと考える人もいるだろう。いずれにしても、元気なうちから、終末期をどう過ごしたいかを考えるとともに、おひとりさまであれば、ACPに立ち会い、看取ってくれる友人を育てたいところだろう。