身寄りのない高齢者の「終活」社協が支援…未婚率上昇で今後も増加か【愛知発】

2022年07月14日FNNプライムオンライン


頼れる親族などがいない“身寄りのない高齢者”が増えている。亡くなった後の葬儀や家財の処分などについて、生前に本人の意向を確認しておくなどの「終活」を支援する事業を、名古屋市の社会福祉協議会が始めた。

“身寄りのない高齢者”の「終活」 社協が支援

2022年5月、名古屋市北区の葬儀場。お棺に収められている76歳で亡くなった女性には、頼れる親族などがいなかった。そんな女性のもとに焼香に訪れたのは、名古屋市社会福祉協議会の職員たちだった。

葬儀はせず、他に訪れる人もない簡素な出棺。これは、亡くなった女性が望んだ形だった。

名古屋市社会福祉協議会・野川すみれさん:
病気が重い方で、長くないことは自覚の上、亡くなった後のことを頼める方がいらっしゃらないとご相談にいらっしゃいました

この女性のような“身寄りのない高齢者”を対象に、「終活」を支援する事業が、いま注目されている。

野川すみれさん:
普通のお通夜・葬儀・初七日ってやられる方もいますけど、どちらかというと、今日のような直葬を希望される方が多い

葬儀から財産整理まで…生前に意向を確認「エンディングサポート事業」

名古屋市社会福祉協議会には以前から、身寄りのない高齢者から、死後の葬儀や家財処分・病院に入院する際の緊急連絡先など、頼める人がいないといった相談が寄せられていた。

野川すみれさん:
身寄りのない高齢者の方で、「自分が亡くなったあと誰に頼んだらいいのか」という不安の声も多かった

そうした声を受け、2021年2月から始めたのが「エンディングサポート事業」だ。

名古屋市在住・子供や孫がいない・50万円以上の預託金を支払えるなど、いくつかの条件を満たした70歳以上を対象に、死後の手続きなどを支援する事業だ。これまでに23人と契約を結んだ。

契約者の死後は、電話や電気などの解約をはじめ、事前に預かった預託金で葬儀費用や家財の処分、病院や介護施設への支払いなどを済ませる。こうしたサービスで最も重要になるのが、契約者の意思だ。

野川すみれさん:
例えばご親族のこと、ペットを飼っているかとか…。病院のこととか、延命治療のご希望、そういったのを書いていただいたり

独自に作成したエンディングノートに意向を書き込んでもらい、把握しておく。財産の整理や葬儀、納骨の希望などを確認することになっていて、契約にあたっては、1つずつ職員と一緒に決めてもらうようにしている。

「ずっと一緒に寄り添っていく」 契約者を見守る役割も

この日、名古屋市社会福祉協議会の野川さんは、契約者の自宅を訪問した。この事業のもう一つの柱が、契約者の見守り活動だ。

野川すみれさん:
お変わりないですか。先月よりお元気そうで

契約者・永田佳代子さん(仮名):
そうなんです。契約してから、みんなに明るくなったって言われて

毎月1回電話するほか、半年に1度は直接会って様子を確認する。体の具合や暮らしぶりをみるだけでなく、趣味や好みを知るのも大事な目的だ。

この日訪ねたのは、北区の永田佳代子さん(仮名)80歳。29歳の時に結婚したが3か月ほどで離婚。子供はなく、50年間1人暮らしだ。

愛知県内に3人の妹が住んでいるが、距離が離れているうえ、自分と同じく年老いた妹たちには何かあった時に頼るのは難しいからと、2021年の秋に社協と契約した。

永田佳代子さん:
この先、体の状態、生活の環境が変わっていくかは不安ですけど、亡くなる時のこととか、亡くなった後を調べると、結構大変な手続きがあるんですね。それもエンディングサポートはやっていただけるということなので

定期的に食事に出かける仲の良い友達はいるそうだが、葬儀などで手間をかけさせたくないという。

永田佳代子さん:
お葬式は希望してないけどシンプルで、みなさんにお世話をかけない方法が一番望むところ

野川すみれさん:
ずっと一緒に寄り添っていく事業。医療や介護が必要になった時に、お元気だった時にこんなことが好きだった方だとか、こういう環境が好きな方っていうのを伝えられるように意識してお聞きするようにしています

増え続ける“身寄りのない高齢者”…家族以外でも支え合える社会づくり

国も“身寄りのない高齢者”の正確な人数を把握していないが、未婚率の増加などから、今後確実に増えることが見込まれている。もし身寄りのない人が亡くなると、遺体を引き取る親族を探し出したり、火葬をするのは自治体の仕事になる。

名古屋市の担当者(2022年2月の会見):
本市職員が不適切な事務処理行いましたことを深くお詫び申し上げます

名古屋市では2022年2月に、身寄りのない13人の遺体を、葬儀業者の施設に放置していたことが発覚。その期間は最長で3年4か月にも及んだ。市は、「他の業務が忙しく後回しになってしまった」と釈明したが、増加する“身寄りのない高齢者”に自治体の対応が追い付かなくなっているのだろうか?

専門家は、日ごろから身寄りのない高齢者を孤立させない取り組みが重要だと指摘する。

日本福祉大学・藤森克彦 教授:
日本は、家族の中だったら迷惑かけていいけど、家族以外に迷惑かけるのに心理的なハードルが非常に高い国。でも身寄りのない方が増える中で、家族以外の支え合いをどう作っていくか。身寄りのない方々がつながっていけるような居場所をどう作るかは、考えていかなきゃいけない

誰にも必ず訪れる、人生のエンディング。身寄りがなくても納得した終わり方を迎えるために今、新しい形が求められている。